
こんにちは
小野派一刀流免許皆伝小平次です
以前連載した『インド放浪・本能の空腹』、あの時のインド訪問から6年後、私は再びインドを訪れました。
会社勤めをしておりましたので、2週間ほどの短い期間でしたが、まあまあ、色々な出来事がありましたので、その時の様子をまた日記風につづって行きたいと思います
プリーに到着後、以前長期滞在したバブーの伯父が経営するホテルを目指しましたが、そこにホテルは無く、伯父一家もどこかへ引っ越してしまっていたという悲しい情報、やむなく海岸線のホテルに行き、その中庭でカードゲームに興じていた男の一人がバブーを知っていると言い、このホテルまで連れて来てくれることになった、という所まででした
では、つづきです
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中庭でカードゲームに興じていた髭面の男から、ひとまずバブーをここに連れて来てくれる、という言葉をもらい、その後おれと前橋は部屋には戻らず、そのままホテルの前の通りに出た。朝飯も食っていなかったこともあり、早めの昼食をとるため、6年前、おれがこのプリー滞在の後半、毎日のように通ったレストラン、
『Mickey Mouse』
に行こうと歩き始めた。
この通りを歩いていると、まるでつい昨日、ここを歩いていたような錯覚に陥る、両側にある掘っ立て小屋ののような雑貨屋や八百屋、幅を利かせる野良牛、懐かしいを通り越して、やはり帰って来たという感情がより強く湧きおこる。
『小平次、良かったよな、バブーを知っている人がいて、で、しかも連れて来てくれるって』
『ああ、まあ、そうだね。。』
『お? あんまりうれしそうじゃないな?』
『いや、まあ、インド人の約束だからな、あんまり当てにはできないから。。』
『そんなもんか?』
『うん、おれたち日本人にはあまりわかにくい感覚だけど、インド人って外国人に道を聞かれたりっていう非日常に出くわすと、何とか役に立ちたいって気持ちが先走るのか、ろくに知らないのに道を教えて、で、結局それが違ってるっていうのが結構あるんだよね、だから今回も、もし本当に連れ来てくれたらラッキー、くらいに受け止めてるよ。。』
『そうかぁ。。』
ほどなくして『Mickey Mouse』の前までやってきた、バブーの伯父のホテルは無くなっていたが、Mickey Mouseは健在だった、良かった。
6年前、この店に通っていた時、シメンチャローという少年従業員と出会った。シメンチャローは当時12歳、普通の子供なら学校に通っている時間に働いていた。同じ年頃の子供も数人働いていた。シメンチャローはどういうわけか、おれのことが気に入ったらしく、注文をとるのも料理を運ぶのも他の子にはやらせず、必ずシメンチャローがおれの席まで来た。料理を運ぶと、そのままおれの横で、日本のこと、東京の街のこと、自分がもし日本に行けたらどれだけうれしいか、そんな話を繰り返すのだった。
インド最南端、カーニャクマリまで自転車で走破することを目的にインドにやって来たK君、いや、もう何年も前のことだから本名を言おう、『黒岩君』、もし彼がこの日記を見てくれたら、数十年ぶりの再会が果たせるかもしれない、その黒岩君と6年前、ダッカで別れた後プリーで再開した。黒岩君が来るとシメンチャローはより一層おれたちのテーブルに来ては、話をするようになった。
(そう言えば、この通りでリクシャの自転車引きがおれを乗せて、黒岩君と自転車競走をしたなあ。。)
おれが前回の旅で、この居心地の良かったプリーを離れ、帰国も視野にカルカッタへ戻ろうと決意したのは、この店のオーナーが、空き瓶の片づけがなっていない、と激怒し、大声で怒鳴りながら鞭のように撓る竹棒で、少年従業員たちをぶっ叩いている光景、ビシッ!ビシッ!ビシッ!、竹棒で打ち付けられながら、シメンチャローがいつものように眉をハの字にして、困ったような顔をしながらも、心配を掛けないようおれと黒岩君に笑顔を見せた、その笑顔を見たからだった。
なぜ、シメンチャローの打ち付けられる姿、笑顔を見てこの街を出ようと思ったのかは、今でもよくわからない。
6年前と変わらない店構えの、掘っ立て小屋を大きくしたような店内に入る、そして席に着く、辺りを見回す、シメンチャローは!。。。 予想通りいない、あれから6年、シメンチャローは18歳、今この店で給仕をしているのはやはり当時のシメンチャローと同じ歳の頃、12、3歳の少年ばかりだった。
一人の少年がメニューを二つ、おれたちのテーブルに置いた。おれはそのメニュー見ながら言った。
『夜行列車で疲れたし、まずビール飲みたいな』
『いいね!』
『あと、ここら辺はさ、見ての通り海があって、漁村や市場も近くにあるから、新鮮な魚介料理が食いたいな、えっと。。おれは、シーフードカレーと、この、Fish…、Fish…、ナンチャラ、これもらおう』
『おれは…、どうしようかな、うーーん…、 あ、これ、このミートソーススパゲティをください』
『……、えっ!?』
前橋の注文を聞いておれは思わず少しイラッとした。イラッとしたが、食い物のことで人からとやかく言われるのも嫌だろうと思い黙っていた、が、イラッとした。
飛行機での移動時間、バンコクでの往復トランジット、インドに居られるのは10日程度、さらにこのプリーに居られるのは一週間、その初日になんでミートソーススパゲッティ?
旅行に行ってその土地ならではの飯を食うって、結構その旅行の大きな醍醐味の一つだろう、まして初めてのインドのプリー、海辺の街プリーで初めて食べる料理が…、なんで…。
『ミートソーススパゲティ』
な・ん・だ・よ!!?
日本に帰ったらもう二度と食べられない料理だってたくさんあるのに…。
このミッキーマウス付近は、各国のバックパッカーが集まる地域でもあり、店のメニューも確かにバラエティに富み、長期滞在して地元料理に飽きた時にはいいかもしれないが……。そう、前橋とはこういう男なのである。
7年前、インドへ行くために新卒で入り3年間勤めた会社を辞め、地元の実家付近で一人暮らしをするために東京から引越しをした。大した荷物は無かったが、エレベーター無しのアパートの4階、大学時代の後輩に引越しを手伝ってもらった。無事に終え、礼を言って少しばかりの寸志を渡し、さらに
『この近くに回転寿司があるんだけど、海が近いこともあって、朝獲れの新鮮なネタ仕入れてて、回転寿司とは思えないくらい旨い店があるんだけど、お礼にご馳走するよ』
『え、いいんスか? ご馳走になります!!』
店に入り、ボードに手書きで書かれた本日のおすすめネタを見る。
『お、春告魚(メバル)の朝獲れ、いいね、旬だね』
おれは目の前の職人にメバルの握りを注文した。後輩は流れているすし皿をしばらく眺めてから、おもむろに一枚の皿を取った。後輩がおもむろに取ったのは。。。。
(コーンマヨの軍艦巻)
おれはドリフのコントのように脱力してずっこけそうになった。そして、イラッとした。
『あのさぁ…、コーンマヨ、好きなの? 好きなら別にいいんだけど。。。』
『えっ? いや、流れて来たタイミング的に。。』
改めてイラッとした。
前橋が美味そうにビールを飲みながらミートソースを食っているのを見て、おれはあの日のコーンマヨの軍艦巻きを思い出していた。まあ、それでも楽しく、懐かしく食事を済ませホテルへと戻った。
ホテルへ戻り、中庭を覘くと、男たちがまだカードゲームに興じていた。ふと、その周りに立ち、ゲームを眺めている一人の小柄な男に目が行った。その男の顔を見た途端、おれの体全体が急に火照り出し、胸が高鳴るのを抑えきれなくなった。
『キミは! キミはもしかしてシメンチャローじゃないか!!!?、そこのMickey Mouseで働いていた、シメンチャローじゃないか!!!?』
男は怪訝そうにおれを見ている、興奮したままおれはさらに続けた。
『ボクは6年前ここに来て、毎日のように君のいるMickey Mouseに行っていたんだ、キミはシメンチャローだよね!』
男は怪訝そうな顔のままだ。
このハの字の眉毛、いつも困っているような顔、絶対にシメンチャローだ、おれはそれでもまだ怪訝そうな顔をしている男のもとに駆け寄った。
****************************つづく
さて、出会えた男はシメンチャローだったのでしょうか。それは次回ということで。
それはそうとgooブログ、無くなっちゃうんですね。せっかく時に楽しく、時に勉強をさせてもらい、良いお仲間がいらしてくれたのに…。残念です。